Javaの仮想スレッドとは
仮想スレッドとは、Java 21から正式に導入された軽量スレッド実装である。従来のプラットフォームスレッドと同じスレッドAPIを使用しながらも、リソース消費を大幅に抑えた並行処理を実現する技術である。実行モデルはスレッドであるが、その内部実装は根本的に異なる方式を採用している。
仮想スレッドの概念と基本的な特徴
仮想スレッドは、Javaプラットフォーム上でソフトウェア的に管理されるスレッドである。オペレーティングシステムのネイティブスレッドに直接マッピングされず、Javaランタイムによって効率的に管理されることが特徴である。
Thread virtualThread = Thread.ofVirtual().start(() -> {
System.out.println("仮想スレッドで実行中");
});
このコードは仮想スレッドを作成し即座に実行している。Thread.ofVirtual()メソッドによって仮想スレッドビルダーが取得され、start()メソッドによってスレッドが起動する。仮想スレッドはヒープメモリ上に作成されるため、従来のネイティブスレッドと比較して非常に軽量である。
仮想スレッドの主な特徴は以下の通りである。
- 非常に軽量でメモリ消費が少ない
- スレッド数の制約がほぼ存在しない
- 従来のスレッドAPIと完全な互換性を持つ
- ブロッキング操作が効率的に処理される
仮想スレッドは内部的にはタスクとして実装されており、少数のキャリアスレッド(実際のOSスレッド)上で実行される。これにより、数百万の仮想スレッドを同時に扱うことが可能となり、I/O待ちのような状況でも効率的にリソースを活用できる。
従来のプラットフォームスレッドとの比較
従来のプラットフォームスレッドは、オペレーティングシステムのネイティブスレッドと1対1で対応している。これに対し、仮想スレッドはM:Nモデルを採用しており、多数の仮想スレッド(M)が少数のプラットフォームスレッド(N)上で実行される。
// プラットフォームスレッド(従来型)
Thread platformThread = Thread.ofPlatform().start(() -> {
System.out.println("プラットフォームスレッドで実行中");
});
// 仮想スレッド
Thread virtualThread = Thread.ofVirtual().start(() -> {
System.out.println("仮想スレッドで実行中");
});
両者は同じThread APIを使用するが、内部実装と特性が大きく異なる。プラットフォームスレッドはOSスレッドを直接使用するため、生成コストが高く、同時実行数に強い制限がある。一般的に数千程度が限界となり、それ以上のスレッド生成はシステムリソースを圧迫する。
一方、仮想スレッドは以下の点で優れている。
- スタックサイズが動的に管理される
- 作成・破棄のコストが非常に低い
- コンテキストスイッチが高速
- ブロッキング操作時に実行中のキャリアスレッドを解放する
特に重要な点は、ブロッキング操作(ファイルI/O、ネットワーク通信など)に対する処理方法である。プラットフォームスレッドがブロックされると、対応するOSスレッドも完全にブロックされ、他の処理に使用できなくなる。一方、仮想スレッドがブロッキング操作を行うと、実行中のキャリアスレッドから切り離され(アンマウント)、操作完了後に別のキャリアスレッドに再度マウントされる。これにより、限られたOSスレッド数でも効率的に多数の並行処理が実現できる。
仮想スレッドが登場した背景と目的
仮想スレッドは、Project Loomという大規模なJava改良プロジェクトの主要コンポーネントとして開発された。この技術が必要とされた主な背景は現代のアプリケーション開発における並行処理の課題である。
伝統的なスレッドベースのプログラミングモデルは理解しやすく、デバッグも比較的容易である。しかし、従来のプラットフォームスレッドは高コストであるため、大量の並行処理を行うアプリケーションでは限界があった。この問題を解決するために、非同期プログラミングモデル(コールバック、Future、ReactiveStreamsなど)が導入された。これらのアプローチはスケーラビリティを向上させるが、コードの流れが分断される場合がある。
// 非同期プログラミングモデルの例(CompletableFuture)
CompletableFuture.supplyAsync(() -> fetchData())
.thenApply(data -> processData(data))
.thenAccept(result -> saveResult(result))
.exceptionally(ex -> handleError(ex));
// 仮想スレッドを使用した同期スタイル
Thread.ofVirtual().start(() -> {
try {
var data = fetchData(); // ブロッキング操作
var processed = processData(data); // ブロッキング操作
saveResult(processed); // ブロッキング操作
} catch (Exception ex) {
handleError(ex);
}
});
仮想スレッドの主な目的は、スレッドモデルの単純さと理解しやすさを維持しながら、高いスケーラビリティを実現することである。これにより、シンプルな同期スタイルのコードでも、数百万のユーザーリクエストを同時に処理できるWebサーバーの実装が可能になる。なお、CompletableFutureなどの非同期APIと仮想スレッドは排他的ではなく、状況に応じて組み合わせて使用することも可能である。
また、既存のJavaコードベースを大幅に書き換えることなく、スケーラビリティを向上させることができるという利点もある。仮想スレッドは従来のThreadクラスを拡張したものであるため、互換性が高く、移行コストが低い。
仮想スレッドの仕組みを理解する
仮想スレッドの内部実装を理解することは、この技術を効果的に活用するために重要である。仮想スレッドは、タスクとして実装され、ランタイムによって管理されている。この実装方式が、従来のプラットフォームスレッドと比較して軽量かつ効率的な並行処理を可能にしている。
スレッドスケジューリングの基本原理
仮想スレッドのスケジューリングは、ForkJoinPoolというJava標準のスレッドプールの技術を使用しているが、ForkJoinPool.commonPool()ではなく、仮想スレッド専用に作成された独立したForkJoinPoolインスタンスによって管理されている。このスケジューラーのスレッド数は必ずしもCPUコア数に比例せず、JVMの内部実装によって決定される。
// スケジューラーの実装確認 - 注意:共通プールは仮想スレッドのスケジューラーではない
System.out.println("利用可能なプロセッサ数: " + Runtime.getRuntime().availableProcessors());
// 仮想スレッドの実行状況を確認する方法
Thread vt = Thread.ofVirtual().start(() -> {
System.out.println("現在のスレッド: " + Thread.currentThread());
System.out.println("仮想スレッドか: " + Thread.currentThread().isVirtual());
});
vt.join();
仮想スレッドスケジューラーは以下の原則に基づいて動作する。
- 仮想スレッドはキャリアスレッド上で実行される
- ブロッキング操作時には仮想スレッドはキャリアスレッドからアンマウントされる
- ブロッキング操作が完了すると、仮想スレッドは再びキャリアスレッドにマウントされる
- スケジューラーは作業窃取(work-stealing)アルゴリズムを使用して負荷分散を行う
このスケジューリングモデルにより、少数のキャリアスレッドで多数の仮想スレッドを効率的に実行できる。特に、I/O待ちのような状況で効果を発揮する。I/O待ちの間、キャリアスレッドは他の仮想スレッドの実行に使用され、システムリソースが無駄に消費されることがない。
キャリアスレッドとマウンティングの概念
キャリアスレッドとは、仮想スレッドを実行するために使用される実際のプラットフォームスレッドである。仮想スレッドはキャリアスレッド上で「マウント」され、実行される。
// カスタムスケジューラでの仮想スレッド実行
ExecutorService scheduler = Executors.newFixedThreadPool(4); // 4つのキャリアスレッド
ThreadFactory factory = Thread.ofVirtual().scheduler(scheduler).factory();
Thread vThread = factory.newThread(() -> {
System.out.println("カスタムスケジューラで実行中の仮想スレッド");
});
vThread.start();
このコードでは、カスタムのExecutorServiceをスケジューラとして使用して仮想スレッドを作成している。この場合、4つのキャリアスレッドが作成され、それらが仮想スレッドを実行するための基盤となる。通常、独自のスケジューラを指定することは必要ないが、特殊な要件がある場合には上記のようなカスタマイズも可能である。
マウンティングとアンマウンティングのプロセスは、仮想スレッドの効率性の核心である。仮想スレッドが実行を開始すると、キャリアスレッドにマウントされる。ブロッキング操作(例:ネットワーク待ち)が発生すると、仮想スレッドはキャリアスレッドから一時的にアンマウントされ、キャリアスレッドは他の仮想スレッドを実行できるようになる。ブロッキング操作が完了すると、仮想スレッドは再びいずれかのキャリアスレッドにマウントされ、処理を続行する。
このマウンティングとアンマウンティングの仕組みにより、限られたOS スレッド数でも効率的に多数の並行処理が可能となる。特に、I/O待ちのような状況で大きなメリットがある。
スレッドパーキングとブロッキング操作の処理
仮想スレッドの最も重要な特性の一つは、ブロッキング操作の効率的な処理である。従来のプラットフォームスレッドでは、ブロッキング操作によりOSスレッド全体がブロックされるが、仮想スレッドではブロッキング操作が特別に処理される。
Thread.ofVirtual().start(() -> {
try {
// ブロッキング操作の例(ファイルの読み込み)
var path = Path.of("sample.txt");
var content = Files.readString(path); // ここでブロッキング発生
System.out.println("ファイル内容: " + content);
} catch (IOException e) {
e.printStackTrace();
}
});
このコードでファイル読み込み操作中、仮想スレッドはブロッキング状態になる。この間、以下のプロセスが発生する。
- 仮想スレッドはキャリアスレッドからアンマウントされる
- キャリアスレッドは他の仮想スレッドの実行に使用される
- ファイル読み込みが完了すると、仮想スレッドは再びキャリアスレッドにマウントされる
- 処理が続行される
このプロセスは「パーキング」と呼ばれる。仮想スレッドは実行中に、ブロッキング操作を検出すると自動的にパークされ、キャリアスレッドから切り離される。これにより、少数のキャリアスレッドで多数のブロッキング操作を効率的に処理できる。
重要な点として、すべてのブロッキング操作が最適化されるわけではない。Javaのほとんどの標準APIのブロッキング操作(ファイルI/O、ネットワークI/O、Thread.sleep()など)は最適化されているが、ネイティブコードのブロッキング操作やJNI呼び出しなどは依然としてキャリアスレッドをブロックする可能性がある。
また、同期ブロック(synchronizedキーワードを使用したコード)の扱いは注意が必要である。Java 21では、仮想スレッドが同期ブロックに入った際の挙動が改善されている。従来は同期ブロックに入るとキャリアスレッドからアンマウントされなかったが、Java 21では同期ブロックでもロック取得時に長時間ブロックする場合、自動的にキャリアスレッドからアンマウントされるよう最適化されている。これによりデッドロックのリスクを軽減しつつ、短時間の同期ブロックであれば高速に実行できるバランスが取られている。この挙動はjdk.virtualThreadScheduler.maxPinnedThreadsシステムプロパティを使用してカスタマイズすることも可能である。
仮想スレッドの実装と基本操作
仮想スレッドはJava 21から正式に導入された機能であり、標準的なThreadクラスの拡張として実装されている。基本的な操作方法は従来のスレッドと類似しているが、生成方法や管理方法に若干の違いがある。ここでは、仮想スレッドの基本的な操作方法について解説する。
仮想スレッドの作成方法
仮想スレッドを作成する方法はいくつか存在する。最も基本的な方法はThread.ofVirtual()メソッドを使用する方法である。
// 仮想スレッドの基本的な作成と実行
Thread vThread = Thread.ofVirtual().start(() -> {
System.out.println("仮想スレッド内: " + Thread.currentThread());
try {
Thread.sleep(100); // ブロッキング操作
} catch (InterruptedException e) {
e.printStackTrace();
}
});
// スレッドの完了を待つ
try {
vThread.join();
} catch (InterruptedException e) {
e.printStackTrace();
}
このコードでは、Thread.ofVirtual()によって仮想スレッドビルダーを取得し、start()メソッドでRunnableを実行している。このRunnableが仮想スレッド内で実行される。join()メソッドを使用することで、仮想スレッドの完了を待つことができる。
仮想スレッドはThread.Builderインターフェースを通じてカスタマイズすることも可能である。
// 名前付き仮想スレッドの作成
Thread namedVThread = Thread.ofVirtual()
.name("カスタム名仮想スレッド")
.start(() -> {
System.out.println("名前付き仮想スレッド実行中: " + Thread.currentThread().getName());
});
Thread.Builderを使用すると、スレッド名の設定、スレッドのスケジューラーの指定、非継承のスレッドローカル変数の設定などができる。これらの設定は仮想スレッドの動作をより細かく制御するために役立つ。
また、仮想スレッドファクトリーを使用して複数の仮想スレッドを同じ設定で作成することも可能である。
// 仮想スレッドファクトリーの使用
ThreadFactory factory = Thread.ofVirtual().name("worker-", 0).factory();
Thread worker1 = factory.newThread(() -> System.out.println("ワーカー1実行中"));
Thread worker2 = factory.newThread(() -> System.out.println("ワーカー2実行中"));
worker1.start();
worker2.start();
このコードでは、name()メソッドの第一引数「worker-」はスレッド名のプレフィックスを、第二引数「0」は連番の開始値を指定している。この例では「worker-0」、「worker-1」というように自動的に連番が付与されたスレッド名が生成される。このように、仮想スレッドは従来のスレッドと同様のインターフェースを持ちながらも、内部実装は大きく異なる。
ExecutorServiceによる仮想スレッドの管理
多数の仮想スレッドを効率的に管理するためには、ExecutorServiceを使用するのが一般的である。特に、Executors.newVirtualThreadPerTaskExecutor()メソッドは、タスクごとに新しい仮想スレッドを作成するExecutorServiceを提供する。
// ExecutorServiceによる仮想スレッドの管理
try (ExecutorService executor = Executors.newVirtualThreadPerTaskExecutor()) {
IntStream.range(0, 10000).forEach(i -> {
executor.submit(() -> {
Thread.sleep(100); // ブロッキング操作
System.out.println("タスク " + i + " 完了");
return i * 2; // 結果を返す
});
});
// すべてのタスクが完了するまで待機
executor.shutdown();
executor.awaitTermination(1, TimeUnit.HOURS);
} catch (Exception e) {
e.printStackTrace();
}
このコードでは、10,000個のタスクをExecutorServiceに送信している。newVirtualThreadPerTaskExecutor()は、各タスクを実行するために新しい仮想スレッドを作成する。従来のスレッドプールでは、これほど多数のスレッドを扱うことは現実的ではなかったが、仮想スレッドでは効率的に処理できる。
try-with-resourcesステートメントを使用することで、ExecutorServiceのライフサイクルを部分的に管理できるが、完全な管理のためには追加の処理が必要である。try-with-resourcesブロックを抜けると自動的にclose()が呼び出され、これはExecutorServiceではshutdown()を実行するが、すべてのタスクの完了を待つわけではない。すべてのタスクが完了するのを確実に待つには、明示的にshutdown()とawaitTermination()メソッドを呼び出す必要がある。上記のコードでは、最大1時間待機するように設定している。
ExecutorServiceには複数のメソッドがあり、これらを使って並行処理をさまざまな方法で制御できる。
try (ExecutorService executor = Executors.newVirtualThreadPerTaskExecutor()) {
// 単一のタスクを実行(Future経由で結果を取得)
Future<String> future = executor.submit(() -> {
return "タスク実行結果";
});
// すべてのタスクが完了するのを待つ
List<Callable<Integer>> tasks = IntStream.range(0, 100)
.mapToObj(i -> (Callable<Integer>) () -> {
Thread.sleep(new Random().nextInt(100));
return i;
})
.collect(Collectors.toList());
List<Future<Integer>> results = executor.invokeAll(tasks);
for (Future<Integer> result : results) {
System.out.println("結果: " + result.get());
}
} catch (Exception e) {
e.printStackTrace();
}
invokeAll()メソッドを使用すると、すべてのタスクが完了するまで待機し、すべての結果を一度に取得できる。また、invokeAny()を使用すると、いずれかのタスクが完了した時点で結果を取得できる。
仮想スレッドベースのExecutorServiceは、スレッドプールではなく、タスクごとに新しい仮想スレッドを作成する点に注意が必要である。これは、仮想スレッドの作成コストが非常に低いため、スレッドを再利用する必要がないためである。
構造化並行性(Structured Concurrency)の適用
構造化並行性(Structured Concurrency)は、並行処理をより安全かつ管理しやすくする新しいプログラミングパラダイムである。Java 19で最初にプレビュー機能として導入され、Java 21では第二プレビューとして提供されている。これは、仮想スレッドと組み合わせて使用することで、より堅牢な並行処理コードを作成できる。
// 構造化並行性の例
try (var scope = new StructuredTaskScope.ShutdownOnFailure()) {
// 複数のサブタスクを起動
Supplier<String> user = scope.fork(() -> fetchUser());
Supplier<List<Order>> orders = scope.fork(() -> fetchOrders());
// すべてのサブタスクが完了するか、いずれかが失敗するまで待機
scope.join();
scope.throwIfFailed(); // いずれかのタスクが失敗した場合、例外をスロー
// 結果を使用
processUserAndOrders(user.get(), orders.get());
} catch (Exception e) {
handleError(e);
}
StructuredTaskScopeは、親タスクと子タスクの間の関係を明示的に定義する。スコープ内で起動されたすべてのサブタスクは、スコープがクローズされるまでに完了または取り消されることが保証される。これにより、リソースリークやタスクの放置を防ぐことができる。
構造化並行性の主な利点は以下の通りである。
- リソース管理の簡略化
- エラー処理の統合
- キャンセレーションの簡素化
- コードの可読性向上
StructuredTaskScopeには、異なる終了戦略を持つサブクラスがある。
ShutdownOnFailure: いずれかのサブタスクが失敗すると、残りのサブタスクをキャンセルするShutdownOnSuccess: いずれかのサブタスクが成功すると、残りのサブタスクをキャンセルする
また、カスタムの終了戦略を実装することも可能である。
// カスタム終了戦略の例
class CustomScope<T> extends StructuredTaskScope<T> {
private final List<T> results = Collections.synchronizedList(new ArrayList<>());
@Override
protected void handleComplete(Supplier<T> subTask) {
try {
T result = subTask.get();
results.add(result);
} catch (Exception e) {
// エラーを無視(必要に応じて処理)
}
}
public List<T> results() {
return new ArrayList<>(results);
}
}
// 使用例
try (var scope = new CustomScope<String>()) {
scope.fork(() -> "タスク1結果");
scope.fork(() -> "タスク2結果");
scope.fork(() -> { throw new RuntimeException("エラー"); });
scope.join();
List<String> results = scope.results();
System.out.println("成功したタスクの結果: " + results);
} catch (InterruptedException e) {
e.printStackTrace();
}
構造化並行性は仮想スレッドと組み合わせることで、可読性が高く、メンテナンスがしやすい並行処理コードを実現できる強力なツールである。
パフォーマンスとリソース管理
仮想スレッドの主要な利点の一つは、限られたシステムリソースでも大量の並行処理を実行できることである。しかし、効率的に活用するためには、メモリ消費やスケーリングの特性を理解する必要がある。ここでは、仮想スレッドのパフォーマンス特性とリソース管理について解説する。
メモリ消費の特性と最適化
仮想スレッドはプラットフォームスレッドよりもはるかに少ないメモリを消費する。これは、スタックがヒープ上に動的に割り当てられ、必要に応じて拡張・縮小するためである。
// メモリ使用量のより正確なモニタリング
System.gc(); // 測定前にガベージコレクションを実行
MemoryMXBean memoryBean = ManagementFactory.getMemoryMXBean();
MemoryUsage heapBefore = memoryBean.getHeapMemoryUsage();
long before = heapBefore.getUsed();
// 多数の仮想スレッドを作成
List<Thread> threads = new ArrayList<>();
for (int i = 0; i < 100000; i++) {
Thread t = Thread.ofVirtual().start(() -> {
try {
Thread.sleep(1000); // スレッドを生存させる
} catch (InterruptedException e) {
e.printStackTrace();
}
});
threads.add(t);
}
System.gc(); // 測定後にもガベージコレクションを実行
MemoryUsage heapAfter = memoryBean.getHeapMemoryUsage();
long after = heapAfter.getUsed();
System.out.println("100,000スレッドの作成に使用されたメモリ: " + (after - before) / (1024 * 1024) + " MB");
// スレッドの完了を待つ
for (Thread t : threads) {
t.join();
}
このコードでは、100,000個の仮想スレッドを作成し、JMXのMemoryMXBeanを使用してより正確なメモリ使用量を測定している。測定前後に明示的にガベージコレクションを実行することで測定精度を高めている。プラットフォームスレッドを使用した場合、スタックサイズ(デフォルトでは512KB〜1MB)が固定であるため、この数のスレッドを作成するには数十GBのメモリが必要になる。一方、仮想スレッドではヒープ上に動的にスタックが割り当てられるため、実際の使用量はそれよりも大幅に少ない。実際のアプリケーション開発では、より高度なプロファイリングツールを使用して詳細な分析を行うことも検討すべきである。
仮想スレッドのメモリ使用量を最適化するためのポイントは以下の通りである。
- 長時間ブロックする仮想スレッドの数を制限する
- 大きなオブジェクトへの参照をスレッドローカル変数に保存しない
- 必要に応じてGC(ガベージコレクション)調整を検討する
また、仮想スレッドは軽量であるものの、無制限に作成すべきではない。アプリケーションの性質に応じて適切な数を選択する必要がある。仮想スレッドはI/O集約型タスクに最も適しており、CPU集約型のワークロードでは仮想スレッドの数を増やしても性能向上につながらない場合が多い。CPU集約型処理では、利用可能なCPUコア数に基づいたプラットフォームスレッドプールの使用を検討すべきである。
スレッド数のスケーリング効果
仮想スレッドの大きな利点の一つは、スレッド数のスケーリングである。従来のプラットフォームスレッドでは、スレッド数を増やすと急速にシステムリソースが枯渇し、パフォーマンスが低下する。一方、仮想スレッドでは、数百万のスレッドを作成しても、システムリソースをほとんど圧迫しない。
// 仮想スレッドのスケーリング効果測定
long startTime = System.currentTimeMillis();
try (ExecutorService executor = Executors.newVirtualThreadPerTaskExecutor()) {
List<Future<?>> futures = new ArrayList<>();
// HTTP接続のシミュレーション
for (int i = 0; i < 10000; i++) {
Future<?> future = executor.submit(() -> {
// 各タスクは100msのI/O待ちを行う
Thread.sleep(100);
return null;
});
futures.add(future);
}
// すべてのタスクの完了を待つ
for (Future<?> future : futures) {
future.get();
}
}
long endTime = System.currentTimeMillis();
System.out.println("実行時間: " + (endTime - startTime) + "ms");
このコードでは、10,000の独立したI/O操作をシミュレートしている。各操作は100msのブロッキングを行う。仮想スレッドを使用することで、これらのタスクは効率的に並列処理され、実行時間が大幅に短縮される。
仮想スレッドのスケーリング効果は、特にI/O集約型のアプリケーションで顕著である。例えば、Webサーバーやデータベース接続プールなど、多数の並行接続を処理するアプリケーションで大きな恩恵を受ける。
スレッド数のスケーリングに関して考慮すべき重要な点は、CPU集約型のタスクと I/O集約型のタスクを区別することである。仮想スレッドは、I/O集約型のタスクに最も適している。CPU集約型のタスクの場合、利用可能なCPUコア数以上のスレッドを作成しても、パフォーマンスの向上にはつながらない場合がある。
パフォーマンスモニタリングとデバッグ手法
仮想スレッドを使用するアプリケーションのパフォーマンスを最適化するためには、適切なモニタリングとデバッグが不可欠である。Java 21では、仮想スレッドのモニタリングをサポートするための新しいツールや機能が導入されている。
// 仮想スレッドの作成とモニタリング
List<Thread> threads = new ArrayList<>();
for (int i = 0; i < 1000; i++) {
Thread t = Thread.ofVirtual().name("virtual-" + i).start(() -> {
try {
Thread.sleep(ThreadLocalRandom.current().nextInt(1000));
} catch (InterruptedException e) {
e.printStackTrace();
}
});
threads.add(t);
}
// JMXによるモニタリング情報の取得
ThreadMXBean threadMXBean = ManagementFactory.getThreadMXBean();
long[] threadIds = threadMXBean.getAllThreadIds();
System.out.println("合計スレッド数: " + threadIds.length);
// JDK Flight Recorder (JFR)を使用した仮想スレッドのモニタリング
try {
// JFRの記録を開始
Configuration config = Configuration.getConfiguration("default");
Recording recording = new Recording(config);
recording.start();
// 仮想スレッドを利用した処理を実行
try (ExecutorService executor = Executors.newVirtualThreadPerTaskExecutor()) {
for (int i = 0; i < 1000; i++) {
int taskId = i;
executor.submit(() -> {
// JFRイベントを発行
JfrVirtualThreadEvent event = new JfrVirtualThreadEvent();
event.taskId = taskId;
event.begin();
try {
Thread.sleep(10); // 何らかの処理
} finally {
event.end();
event.commit();
}
return null;
});
}
}
// 記録を停止し、ファイルに保存
recording.stop();
recording.dump(Path.of("virtual-threads.jfr"));
} catch (Exception e) {
e.printStackTrace();
}
// スレッドの完了を待機
for (Thread t : threads) {
t.join();
}
// JFRイベントクラス定義
@Name("com.example.VirtualThreadEvent")
@Category("Virtual Threads")
@Label("Virtual Thread Execution")
static class JfrVirtualThreadEvent extends Event {
@Label("Task ID")
int taskId;
}
このコードでは、JMX(Java Management Extensions)によるスレッド情報の取得に加えて、実際にJDK Flight Recorder(JFR)を使用した仮想スレッドのモニタリング例を示している。JFRはJavaアプリケーションのランタイム情報を低オーバーヘッドで記録するためのツールであり、カスタムイベントを定義して仮想スレッドの挙動を詳細に追跡することができる。生成されたJFRファイルは、Java Mission Control(JMC)などのツールで分析できる。
仮想スレッドのデバッグでは、以下の点に注意すべきである。
- スレッドダンプの解釈
- デッドロックや競合状態の検出
- ブロッキング操作の最適化
特に、スレッドダンプは仮想スレッドの場合にも取得可能だが、その解釈は従来のプラットフォームスレッドとは異なる場合がある。仮想スレッドは独自のスタックトレースを持ち、キャリアスレッドのスタックトレースとは区別される。
// プログラムによるスレッドダンプの取得
Map<Thread, StackTraceElement[]> stackTraces = Thread.getAllStackTraces();
for (Map.Entry<Thread, StackTraceElement[]> entry : stackTraces.entrySet()) {
Thread thread = entry.getKey();
if (thread.isVirtual()) {
System.out.println("仮想スレッド: " + thread.getName());
for (StackTraceElement element : entry.getValue()) {
System.out.println("\t" + element);
}
}
}
パフォーマンスのボトルネックを特定するためには、プロファイリングツールが不可欠である。Java標準のJFRは、仮想スレッドのプロファイリングをサポートしており、CPUやメモリの使用状況、ブロッキング操作、コンテキストスイッチなどの詳細情報を収集できる。
また、java.util.concurrentパッケージの各種ユーティリティクラスは、仮想スレッドと組み合わせて使用することで、複雑な並行処理のパターンを簡単に実装できる。例えば、CompletableFutureを使用して、複数の非同期操作の結果を結合したり、依存関係を持つタスクを効率的に実行したりできる。
以上。